筑波研究機関9条の会 第二回対話集会における挨拶

2006年8月20日、高エネルギー加速器研究機構 高松邦夫

 筑波研究機関9条の会世話人の会を代表して、第二回講演と対話集会の挨拶を申し上げます。

 日中・太平洋戦争終結から61年目の夏の一日、暑い中をお集まりいただきました。


 4月23日の第一回講演と対話の集会では、「科学者にとっての憲法9条を考える」と主題して、海洋・水産学を専門とされる河井智康氏をお招きして「科学者と憲法の価値」について講演を頂きました。あわせて、KEKの和気正芳氏より「加速器国際会議(1994年)における軍事研究拒否の問題」と題して物理研究者の考えたこと経緯及びそれらが現在に齎したものについて、全建労地理支部の山根精一氏より「地図の役割と平和」と題して地図と戦争の関わりについて、また、代表世話人の緒方章宏氏から、特に、「国民投票案の問題点」につき骨子と問題点の的確なまとめを話して頂き、それらを基調にして意見を交換いたしました。

 今回は、その第二回対話集会として、「つくばでの研究所平和宣言(1987年)を考える」と主題して、我々が1980年代後半に何を作り上げて、それらの運動が現在に何を伝えているか確認・討論する機会を計画いたしました。

夫々ご報告を頂き、討論を行ってまいりたいと考えております。報告と共に討論の為の時間が十分用意されています。意を尽くした討論が行なわれることを期待しています。


 先週の15日には、内閣総理大臣が、無法にも、日本の近代化の過程で関わった帝国主義的侵略戦争を賛美している靖国神社に参拝いたしました。そこでは、アジア経略を掲げた日中・太平洋15年戦争賛美が中心になっています。あの戦争がアジア諸国への侵略戦争であったことが明白な歴史的認識であるにも拘らず、参拝の行為を重ねました。平和祈願を口にしていますが、その反社会性と没論理性を覆い隠すことはできません。他国への侵略戦争を主唱し、主導した人々を追悼するという行為のもとで、同時に、憲法の改悪と教育基本法の改悪を企図し、それらを罷り通そうとしている現状にあって、私達は互いの考えを確認しながら、それらの暴力に対処してゆく連帯行動が一層求められてきています。この点で、本集会の持つ意義は決して小さいものではないと、世話人一同、考えております。


 四月の第一回の集会から略四ヶ月が経過いたしました。この間、第一回集会の際講演いただきました河井智康氏が亡くなられました。謹んで哀悼の意を表します。研究機関9条の会は、五月以降、メーデーにおける訴えかけ、及び各研究機関への働きかけを精力的に行なってまいりました。7月31日現在、賛同者数 779名、署名数 152名に達しています。ニュースNo.6及びNo.7を、この間、発刊いたしました。各研究機関に於ける活動状況については、討論の中でご紹介いただけることと思います。 一方全国的には、九条の会の呼びかけから二年を経て、6月10日には全国集会が持たれました。三木睦子氏、大江健三郎氏、加藤周一氏、小田実氏、澤地久枝氏、鶴見俊輔氏のメッセージは、夫々、私たちの心に響くものがあります。小田実氏は「いま、理想的であることが現実的である。」と述べました。加藤周一氏は市民運動の横のつながりの重要性に触れ、「散在して、ばらばらになっているのを横に連帯する組織だ。」と述べています。大江健三郎氏は憲法九条と天皇の戦争責任に触れ、そして沖縄にかかわり倫理的想像力について述べ、「憲法・教育基本法を守りうるか、私たちはわからない。しかし倫理的想像力を考え、子供たちの将来、憲法の将来を考えていきたい。少しずつ声を上げてゆきたい。」と話しています。地域・分野の九条の会の設立は5000以上を数えています。

 他方、日本政府の動向と日米関係、それらを取り巻く国際環境の動きは、わずか四ヶ月の間にも、真に激しいものでした。米国の世界経営戦略において、テロ防止対策を口実にした軍事行動がイラク出破綻し、最近は、イスラエルのレバノン攻撃を黙認することで事実上の支持と援助を与えて、新たに国際紛争を拡大しています。日本国政府の対応は、(1)イラクにおける陸自の撤退おこないながら、他方で空自の米軍支援活動を拡大、(2)米軍のアジア新戦略のもと、米軍基地再配備と日本国内基地再編に関わる日本国政府の対応ー米軍核の傘の下に於ける米軍を全面的補完、(3)北東アジア、特に北朝鮮情勢と其れに対する対応ー日本政府高官の“武力対応発言”。額賀長官、麻生外相、安部官房長官の発言は、先制攻撃を内容にもち、決して許されるものではありません。(4)加えて、マスメディアの協力と財界のお墨付きの下、大統領選挙まがいの自民党の総裁選び。これらの状況が罷り通って、それを許している現状にあるとき、先の首相の靖国参拝を重ねたとき、私どもには一層の対応が求められていると考えざるを得ません。


 靖国神社と靖国参拝について、述べれば、中国・韓国・アジア諸国が反発し、外交を損なうから、国益を損なうから靖国神社参拝がダメなのでなく、日本の近代化の過程において、近くは日韓併合以来15年戦争までアジアへの侵略を目的とした思想と軍事行動がダメなのであり、それに基づく日本帝国主義の他国民に対する大量虐殺を含む非人道的戦争行為がダメなのであり、日本国民を侵略戦争に巻き込んだことがダメなのです。すなわち、私たち日本人がそれを許せないと徒考えるからダメなのです。このことが歴史に学ぶということの本質であります。 靖国には天皇の軍隊、職業軍人・徴兵軍人と軍属が祀られていますが、沖縄戦・都市爆撃・原爆に被災した日本国民とアジア犠牲者二千万民衆は含まれていません。小泉総理大臣の行為と考えはそのことに目を瞑り、国を護った英霊という感傷に問題をすり替え、国家の行った行為を不問にした全くの似非論理であり、日本国の経営を任せることが出来ない人格と行為であるとして否定されざるを得ません。15年戦争後直ちに、戦争の本質を日本人の手で断罪し、天皇の軍隊の侵略行為と戦争犯罪人を、国際法廷と同時に、を私どもの手で裁ききれなかった弱さを想い、今このような似非論理の横行を許している現状を招来していることを痛感されます。

 此の討論集会が互いの考えを確認しながら連帯を築く上で、それらを一層発展させる上で役立つことを願っています。

 討論集会の司会を樋田さんにお願いしてあります。よろしくお願いいたします。